2026.06.17Bee myself
連載② はちみつのある暮らしーBee myself〈May,2026〉
横浜から軽井沢に移住して1年。新しい環境下、手探りの生活が始まった。
行き着いた先が「はちみつのある暮らし」だった。
自然に恵まれた生活のひとこまを四季折々の風景とともにお届けします。
5月に入って、お隣の家の庭にヤマシャクヤクとヤマブキソウの花が咲いた。隣家のご主人は、春から秋の間、岡山県の自宅から軽井沢の別荘にやって来て滞在し、庭の山野草の世話をしながら暮らしている。
昨夏、フジバカマに集まる蝶のアサギマダラを見つめていたご主人に声をかけたのが縁で、山野草のあれこれを教えてもらうようになった。
「あと何年通えるやら。好きなものは持っていきなさい」と山野草の種や小さな苗を惜しげもなく分けてくださる。慈しみ育てた人に庭の花はやさしく微笑みかけているようだ。
私はもらった苗をさっそく自分の家の庭に植えた。時間があれば庭の雑草を抜いて、山野草に目を配るのが朝の日課になった。ケーンケーンという鳴き声に視線を移すと、雄のキジが隣の庭を悠々と歩いていた。
5月の繁忙期になると、身体はいくつあっても足りなくなる。養蜂場は近隣の町に点在しているので、軽トラックで頻繁に往復することになる。5月半ば、雨宮さんは軽井沢の養蜂場からアカシアの花が咲き誇る佐久市など近隣の養蜂場へ巣箱を移した。ここに2週間ほど置いて、アカシアの蜜で巣箱が満たされるのを待つ。新天地でミツバチは蜜源を割り出し、子育てと蜜集めに奔走する。この間、ミツバチはすさまじい勢いで数を増やしていたことに驚くばかり。
5月末、佐久市の養蜂場で10群の巣箱の採蜜作業を行った。巣箱の中の状態を確認しながら、採蜜する巣枠と次回に備え残す巣枠を選り分けていく。巣枠ごとまとめて分離器にかけると、下の流出口から蜜が流れ落ちる。蜜は濾過され容器に入れられていく。この日の作業は長野市の松代養蜂から熟練スタッフの応援も得て、てきぱきと進められた。
甘い夢のティータイム
「アカシアの木立の多くは、どうかするとその穂先が私の帽子とすれすれになる位にまで低くそれらの花をぷんぷん匂わせながら垂らしていたが、〈中略〉花のまわりには無数の蜜蜂がむらがり、ぶんぶん唸り声を立てていた」(堀辰雄『美しき村』より一部抜粋)
1932年(昭和7年)頃の6月半ばの光景と思われる。現在の軽井沢の万平通りから矢ヶ崎川沿いの道に入ったあたりだろうか。堀の散歩道を辿ってみると、今はもうなくなっているアカシアの並木から、花の甘い匂いが風に運ばれてくるような気がした。
6月に入った。今年はことのほか花の移り変わりが早いらしい。軽井沢でもアカシアの花はすでに終盤を迎え、トチノキの花が咲き出した。
さて、アフタヌーンティータイムには、温めたスコーンにクロテッドクリームとアカシアはちみつをたっぷりかける。アカシアの花の香りと透明な金色の蜜が、スコーンのシンプルな素材のよさを引き立ててくれる。木漏れ陽の中、小説のワンシーンに浸るには絶好のシチュエーションではないだろうか。
Text&Photo 鑓田浩章(やりた・ひろあき)
編集者兼ライター。ハニープラントで養蜂の手伝いをしながら、自然環境、地域産業、歴史文化を切り口に浅間山麓でのフィールド活動を行う。JAL機内誌、JR東日本車内誌、日立製作所ほかのPR誌の編集に長年携わる。著書に『港で働く』『魚市場で働く』『通訳者・通訳ガイドになるには』(ぺりかん社刊)など。









読み込み中...