2026.08.13Bee myself
連載④ はちみつのある暮らし―Bee myself〈July,2026〉
横浜から軽井沢に移住して1年余り。新しい環境下、手探りの生活が始まった。
自然に恵まれた生活のひとこまを四季折々の風景とともにお届けします。
足早に夏が過ぎていく
7月の終わり、群馬県北軽井沢の鬼押出し園に出かけた。ここには、天明3(1783)年の浅間山の大噴火で流れ出た溶岩がそのままの形状で残っている。その荒涼とした景観とは対照的に、浅間山の稜線は穏やかだ。そういえば、私の故郷・群馬県で親しまれている『上毛かるた』の始まりの「あ」は「浅間のいたずら鬼の押出し」。強い夏の陽ざしが照りつける道を辿っていると、今にも岩陰からせせら笑う鬼が飛び出してくるような気がした。
森の中に暮らしていると、自然界のゆるやかな時の流れに歩調を合わせるかのように私の歩みも遅くなる。この夏、匂い立つヤマユリの花が咲き誇る散歩道で何度足をとめたことか。森の中でコブシやシナノキ、コナラ、落葉松など樹林の間を吹き抜ける風のそよぎに時を忘れることもあった。耳を澄まし、目を凝らし、心を空っぽにすると、何かしらの発見があり、遠い日の記憶まで蘇らせてくれるのだ。
思わぬところに養蜂場
軽井沢の千ヶ滝エリアの養蜂場は、国有林の中にある。夏になると周辺を犬の散歩や自然探索で楽しむ人も多い。中にはふと視界に入った養蜂場の巣箱の存在に驚かれる人もいる。7月最後の草刈り作業をしていると、散歩中の人がそばに寄ってきて、「ミツバチはいるのですか」と興味深げに声をかけてきた。樹林が途切れ南に開けたこの場所は、陽ざしも降りそそぎ、花蜜にも恵まれ養蜂に適していると話すと、納得して立ち去っていった。
草刈り機の扱いにも少しずつ慣れてきた。でも、巣箱のまわりだけはミツバチを刺激したくないので手で摘み取る。ミツバチたちは日頃おとなしくても、隙間さえあればどこにでも入り込む。作業の終盤、長靴の中に迷い込んだ蜂をあわてて外に出した。午前中に作業を終え、その日は養蜂場近くのセゾン現代美術館の庭園をめぐり帰途に就いた。
野の花の甘さに包まれて
今回の朝食メニューは、夏の定番シリアルを信州産野ばらのはちみつで味わってみたい。さわやかな野の味わいとでも言おうか、野ばらの華やかな香りに包まれた甘さと、ミルクのまろやかさが渾然一体となり、シリアルの素朴な味を引き立ててくれる。クルミやレーズンとの相性もよく、森のテラスでいただく貴重な野ばらのはちみつ添えシリアルは、欠かせない朝のご馳走になった。
話は少し遡るが、6月の夕暮れ時、軽井沢の矢ヶ崎公園の池のほとりに野ばらを見つけた。小さな白い花弁に鼻を近づけると、野の花の香気が何とも麗しい。堀辰雄の小説『美しい村』の中にも野ばらは出てくるので会いたい花ではあった。気にかけていなけれ
ば、つい見過ごしてしまう可憐な姿。うれしさのあまり、シャッターを切った。
編集者兼ライター。ハニープラントで養蜂の手伝いをしながら、自然環境、地域産業、歴史文化を切り口に浅間山麓でのフィールド活動を行う。これまでJAL機内誌、JR東日本車内誌、日立製作所ほかのPR誌の編集に長年携わる。著書に『港で働く』『魚市場で働く』『通訳者・通訳ガイドになるには』(ぺりかん社刊)など。











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