2026.09.09Bee myself
連載⑤ はちみつのある暮らし―Bee myself〈August,2026〉
横浜・馬車道から軽井沢に移住して、1年半が過ぎようとしている。
8月、新しい家族がやってきた。東京調布市で地域猫として長いこと暮らしてきたさっちゃん。
きらびやかな町通りとは無縁の森の生活に、もうひとつ命のリズムが加わった。
自然豊かな「はちみつのある暮らし」のひとこまを、四季折々の風景とともにお届けします。
遠い思い出、猫と妖精
94歳の母が暮らす施設のある群馬県桐生市にまた様子を見に行ってきた。八木節で有名な桐生祭りも終わり、町中は閑散としていた。私は小学5年生から7年間、この町で過ごした。懐かしい路地には空き地が増え、商店街の店の多くはシャッターを下ろしていた。それでも、織物の町を象徴するノコギリ屋根や趣ある建物に遭遇することもある。時折ふらっと帰ってきたくなる町なのである。
8月になって我が家にちょっとした変化があった。13歳のメス猫さっちゃんが家族に加わったのだ。これまで東京の住宅地の片隅で地域猫として生きてきたが、生活場所を追われ、面倒をみていた知人が声をかけてくれた。驚くべき大声を発し、よくしゃべりよく食べる。静かな山の暮らしが一転、さっちゃん中心のにぎやかな日常に変わった。
さっちゃんが窓からよく眺めているお隣の庭に、森の妖精といわれるレンゲショウマの薄紫の花が咲いていた。いつもなら、この時期いるはずのご主人の姿はまだない。心なしか花たちは淋しそうに風に揺れていた。
夏の終わりの養蜂体験
8月には養蜂体験のイベントが2つあった。場所は千ヶ滝養蜂場。女王バチやミツバチ、雄バチの役割分担、巣箱の中がどうなっているかなど、雨宮さんのレクチャーのあと参加者全員に観察してもらった。
巣箱の中のミツバチの数の多さにまずはびっくり。ミツバチが群れをなし、女王バチが卵を産んでいく巣枠、幼虫がさなぎの状態となり、多くの巣房が蓋をされた巣枠、蜜がたっぷりたまった重い巣枠など手にとって一枚一枚観察した。最初は恐る恐る巣箱をのぞいていた子どもたちも、慣れてくると手袋越しにミツバチに触れたり、巣枠を持って女王バチや雄バチを探してみたり、興味津々であった。
巣箱を観察したあとは、遠心分離機を使って巣枠にたまった蜜を採蜜する作業も体験。きめの細かいオーガンジーの布で濾した生はちみつをその場で味わう。採れ立てのはちみつに「マロンの味がする」「ほっぺがとろけそう!」の声が聞こえてきた。
雨宮さんはミツバチの生態やはちみつのこと、養蜂の仕事を広く知ってほしいとの思いから、このような体験イベントをこれからも続けていきたいと話す。
今回は、大人も子どもも大好きなホットケーキを信州産野ばらのはちみつと一緒に味わってみたい。ふわふわのホットケーキにバターをのせ、生はちみつをかける。もちろんシロップでもよいのだが、私はこのピュアで繊細なはちみつの味わいを好む。ほのかな野の花の香りが朝食プレートをふわり包み込んだ。
7月は夏らしい暑い日もあったが、8月は上着がほしいくらい気温の低いぐずついた天気が続く。8月下旬に思い出したように夏の陽ざし。入道雲。雷雨。夏が逝く。
Text&Photo 鑓田浩章(やりた・ひろあき)
編集者兼ライター。ハニープラントで養蜂の手伝いをしながら、自然環境、地域産業、歴史文化を切り口に浅間山麓でのフィールド活動を行う。上智大学文学部新聞学科卒業後、JAL機内誌、JR東日本車内誌、日立製作所ほかのPR誌の編集に長年携わる。著書に『港で働く』『魚市場で働く』『通訳者・通訳ガイドになるには』(ぺりかん社刊)など。










読み込み中...