2026.09.30Bee myself
連載⑥ はちみつのある暮らし-Bee myself〈September,2026〉
横浜・馬車道から軽井沢に移住して、1年半が過ぎようとしている。
長雨続きの9月、台風が過ぎた翌朝、久しぶりに浅間山を一望できる丘に上った。
陽の光は夏の名残を留めているが、標高1000mの丘を吹きわたる風は秋めいていた。
自然豊かな生活のひとこまを、四季折々の風景とともにお届けします。
さび猫は強運の持ち主
天候不順のせいか8月の終わりから落ち葉が風に舞っている。雨に濡れた葉っぱは始末がわるい。ブロワーも通用しないので、熊手とホウキを使ってせっせ
と集める。夏の間、木々の緑に覆われて見えなかった空が少しずつ顔をのぞかせてきた。
ようやく晴れた9月中旬のある日のこと、家のテラスには久々に木漏れ日が輝いていた。光の中にたたずむ飼い猫のさっちゃん。でもひとつ間違えば、いまも山の中をさまよい歩いていた。
8月の終わり、我が家やって来たさっちゃんは、10日目にちょっとした隙に家を飛び出し行方不明になってしまった。別荘
地の資材置き場にいるところを保護したのは脱走して5日目の朝。屋根のある安全な場所に留まっていてくれたのが幸いした。山の中に迷い込んだら二度と会えなかっただろう。帰ってきてからというもの、夜も眠らず大声で鳴いていた。外猫を13年もやってきたのだから、慣れない土地での家の中だけの生活に、ストレスでいっぱいだったのだろう、きっと。
9月も半ばを過ぎると採蜜作業は終わっているが、養蜂場の巣箱の中では、まだ女王バチが産卵を続けている。本来なら冬が来る前に群を大きくするために、ミツバチたちが元気よく蜜を求めて飛び回っている大事な時期にあたる。
そんな折りも折、雨宮さんから養蜂場に大スズメバチが襲来し、多くのミツバチが被害に遭ったとの連絡が入る。西洋ミツバチは大スズメバチから身を守るために反撃する習性があり、それが災いした。捕獲器の底には、息絶えたミツバチの姿があった。
9月下旬、腐蛆(ふそ)病の検査が長野県佐久家畜衛生保健所の職員によって行われた。これは、幼虫が病原体の含まれた餌を体内に取り込むことで侵される法定伝染病。巣房の幼虫が順調に育っているかを確認する作業になる。雨宮さんは10年来、この病気でミツバチを失ったことはない。普段から巣箱の内と外の衛生管理に気を配り、病気に負けない強いミツバチの群を追い求めてきた結果とも言えよう。
毎年激しく変化する気象状況をにらみながら、天敵や病気からミツバチを守ることも養蜂家に求められるスキルのひとつなのである。
台風一過の朝食は、軽井沢町の隣の御代田町にあるパン屋さんで買ってきたリュスティック・チーズというパン。リュスティックとは「田舎風の」という意味で、外皮はカリッと中はしっとり、そこに小さくカットしたチーズが混ぜ込んである。
このパンには、信州立科産のリンゴはちみつを合わせてみよう。リンゴはちみつは、蜜の甘さの中にリンゴの果実の甘さや香り、ほのかな酸味も加わり風味豊か。濃いめに入れた熱い珈琲が、朝の冷えた身体を温めてくれた。
Text&Photo 鑓田浩章(やりた・ひろあき)
編集者兼ライター。ハニープラントで養蜂の手伝いをしながら、自然環境、地域産業、歴史文化を切り口に浅間山麓でのフィールド活動を行う。上智大学文学部新聞学科を卒業後、JAL機内誌、JR東日本車内誌、日立製作所ほかのPR誌の編集に長年携わる。著書に『港で働く』『魚市場で働く』『通訳者・通訳ガイドになるには』(ぺりかん社刊)など。






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